【ファンダ知識】CPI・PPI・PCEの違い — 3つのインフレ指標を使い分ける

【ファンダ知識】CPI・PPI・PCEの違い — 3つのインフレ指標を使い分ける

そもそもの話 — インフレとは何か、なぜ指標が3つもあるのか

ニュースで「インフレ」という言葉を聞かない日はないくらいですが、そもそもインフレとは「モノやサービスの値段が全体として上がっていくこと」を指します。去年100円で買えていたパンが今年110円になっていたら、その分だけ物価が上がった、つまりインフレが進んだということになります。

このインフレの進み具合を測るための「物差し」が物価指数です。物差しなら1本あれば十分に思えるかもしれませんが、実は「誰の財布から見た値段か」によって答えが変わってきます。スーパーで消費者が実際に払う値段と、工場や農家が出荷するときに受け取る値段は、同じ商品でも一致しません。輸送費や中間業者の取り分、税金などが間に入るからです。そこで、米国では立場の異なる3つの物差しが使われています。それがCPI・PPI・PCEです。この記事では、この3つがそれぞれ何を測っていて、どう使い分ければよいのかを整理します。

【ファンダ知識】CPI・PPI・PCEの違い — 3つのインフレ指標を使い分けるの概念図

結論(30秒版)

  • CPIは「消費者が払う値段」、PPIは「生産者が受け取る値段」、PCEは「FRB(米国の中央銀行にあたる組織)が政策判断で見ている値段」です
  • PPIはCPIより1〜6ヶ月早く動く傾向があり、川上(かわかみ。生産や流通の上流、つまり商品が消費者の手元に届くより前の段階)の変化を映します
  • FRBの物価目標2%は、CPIではなくPCE(正確にはコアPCE=食品とエネルギーという値動きの荒い品目を除いたPCE)を指しています

データ節

CPI(消費者物価指数)は、米労働省が毎月発表している指標です。都市部に住む消費者が、実際の店頭で何にいくら払っているかを調べて算出します。調査対象となる商品やサービスの組み合わせを「バスケット」(買い物カゴのイメージで、食品・住居費・医療・娯楽など生活に関わる項目をひとまとめにしたもの)と呼びますが、このバスケットの中身は2年ごとに見直されます。つまり、いったん決めた買い物カゴの中身は、次の見直しまでは基本的に固定されたまま計算される、という性質を持っています。

PPI(生産者物価指数)も同じく米労働省が毎月発表します。こちらは消費者ではなく、生産者(メーカーや農家など、モノを作って出荷する側)が出荷時に受け取る価格を対象にしていて、約1万品目という非常に幅広い商品をカバーしています。日本の「企業物価指数」に近い性格の指標で、消費者の手元に届く前の、いわば「川上」の段階の値段の動きを映します。原材料費や輸送コストの上昇は、まずPPIに表れてから、時間差をおいてCPIやPCEに波及していくというのが典型的な流れです。

PCE(個人消費支出物価指数)は、米労働省ではなく米商務省が毎月発表する指標です。対象範囲がCPIより広いのが特徴で、都市部だけでなく地方の消費者も含み、さらに政府や非営利団体が消費者のために行う支出(たとえば医療費の一部を保険や公的制度が肩代わりしている部分など)まで含めて計算します。加えてPCEには「代替行動」の反映という工夫があります。代替行動とは、値段が上がった商品から消費者が別の安い商品へ乗り換える動きのことです。たとえば牛肉の値段が上がったときに、消費者の一部が鶏肉を選ぶようになったとします(これはあくまで説明のための仮の例で、実際の統計数値ではありません)。CPIはバスケットの中身がある期間固定されているため、こうした乗り換えの影響をすぐには反映しにくい一方、PCEは毎月の重み付けを見直すことで、この乗り換えの動きを比較的早く数値に取り込みます。その結果として、同じ期間を比べたときにCPIの伸び率のほうがPCEより高めに出やすいという傾向があります。

【ファンダ知識】CPI・PPI・PCEの違い — 3つのインフレ指標を使い分けるの図解2

プロの視点

市場がまず反応するのはCPIです。理由は単純で、発表のタイミングが3指標の中で最も早く、しかも月ごとの振れ幅も大きいため、トレーダーにとって「材料」として使いやすいからです。ニュースの見出しに真っ先に出てくるのもCPIであることが多く、株や為替が発表直後に動く場面のほとんどはCPIが起点になっています。

しかし、ここで一段階踏み込んで考える必要があります。FRBが利上げや利下げを判断するときの物差しは、CPIではなくPCE、それも食品とエネルギーを除いたコアPCEです。なぜCPIではなくPCEなのかというと、先ほど説明した代替行動の反映や対象範囲の広さから、PCEのほうが実際の消費者の生活実感に近い形で物価の趨勢(すうせい。大きな流れ、長い目で見た方向性)をとらえられると考えられているためです。

この構造を知らないと、「CPIが強い数字だったのに、なぜFRB高官の発言はそこまで動揺していないのだろう」といった、一見矛盾するような市場の反応に戸惑うことがあります。CPIは速報性の高い先行指標、PCEは政策判断の本丸、という役割分担を頭に入れておくと、このズレを「指標間の性質の違い」として整理できるようになります。

そしてPPIは、この2つよりさらに手前の段階を映す指標です。生産者が受け取る値段の変化は、時間差を置いて最終的に消費者向けの価格に転嫁されていく傾向があるため、PPIの動きを見ておくことで、翌月以降のCPIやPCEがどちらの方向に動きやすいかを、あらかじめ推測するヒントとして活用できます。

注意点

3つの指標は算出のもとになる対象や計算方法がそれぞれ異なるため、単純にどれが優れているかを比較するものではありません。目的に応じて使い分ける、という前提を忘れないようにする必要があります。

CPIは年金額の改定や物価連動国債の利払い計算に使われるなど、実生活に直結する制度と結びついているため、報道での扱いが大きくなりがちです。ただし、市場や金融政策への影響力という観点で見ると、PCEの比重のほうが高いという点は、報道の扱いの大きさとは分けて考える必要があります。

また、月ごとの数値は季節要因(たとえば夏場のガソリン需要の高まりなど)やエネルギー価格の一時的な変動に左右されやすい性質を持っています。1回分の発表数値だけを見て「インフレが加速している」「収まってきた」と趨勢を判断するのは早計です。複数月の推移を並べて、方向性が続いているかどうかを確認する姿勢が欠かせません。

【ファンダ知識】CPI・PPI・PCEの違い — 3つのインフレ指標を使い分けるの図解3

よくある疑問

Q. 結局、自分はどれか1つだけ見ていればよいのでしょうか。

A. 目的によって変わります。市場全体の短期的な値動きの材料をいち早く追いたいのであればCPI、FRBの利上げ・利下げの方向性を考えたいのであればコアPCE、先行きのヒントを探りたいのであればPPI、という具合に、見たい対象に応じて使い分けるのが基本になります。1つに絞るというより、CPIで市場の反応の起点をつかみ、PCEで政策の本筋を確認する、という二段構えで見る形が実用的です。

Q. なぜアメリカはこんなに指標を分けて発表しているのでしょうか。

A. 「消費者が払う値段」と「生産者が受け取る値段」と「政策判断に使う値段」は、それぞれ調査対象も計算目的も異なるためです。1本の指標だけでは、生活実感に近い数字が欲しい人にも、政策判断の精度を高めたい中央銀行にも、両方に最適な答えを出すことができません。役割の異なる複数の物差しを併用することで、それぞれの用途に合った精度を確保している、と理解しておくとよいです。

Q. PPIが上がるとCPIやPCEも必ず上がるのでしょうか。

A. 必ずそうなるわけではありません。あくまで「先に動きやすい傾向がある」という関係であり、生産者側のコスト上昇が販売価格に転嫁されるかどうかは、企業の価格戦略や需要の強さなど他の要因にも左右されます。PPIの変化は、その後のCPI・PCEの方向感を先取りするヒントの1つとして受け止めるのが適切です。

次の視点

①ヘッドライン(総合の数値)とコアの数値の差、②前月からの伸び率が加速しているか減速しているか、③PPIが事前に示していた変化の方向と、実際に発表されたCPI・PCEの結果が一致していたかどうか、この3点を継続して見比べていくと、単発の数値に振り回されにくくなります。

免責事項

本記事は、経済指標の仕組みを解説する教育目的のコンテンツであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。将来の物価動向や市場の反応を保証するものではなく、投資判断は読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

出典

  • 米労働省(消費者物価指数・生産者物価指数の発表資料)
  • 米商務省(個人消費支出物価指数の発表資料)

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